特発性好酸球増多症候群(HES)治療薬mepolizumabの取り下げ
特発性好酸球増多症候群とは、原因は不明であるが、その名の通り好酸球が増えることにより臓器障害がおこる疾患である。一般的にはコルチコステロイド投与によって免疫反応を抑制することが唯一と言っていいくらいの治療法であるが、最近kinase阻害剤のimatinibが適応を取得したことにより、治療選択肢が増えた。とは言え、HESの二つある型のうち、FIP1L-PDGFRA融合遺伝子陽性型のみに奏功する(imatinibがPDGFRのkinase活性を抑制する)ため、もう一方のIL-5を多量に産生するT細胞に依存する型(このIL-5により好酸球が増加する)に関しては、事実上上記のステロイド治療しか介入手段がなかった。そこへ、抗IL-5抗体であるmepolizumabが臨床試験入りし、奏功が確認され、GSKにより申請に至っていたというわけである。
臨床試験の結果が良好であったことから承認が期待されていたが、29日付でGSKから申請取り下げのリリースがあった。
GSK プレスリリース
薬効の報告(NEJM (358) 1215- (2009))
詳細な理由は定かではないが、臨床有効性を示すには追加データが必要だという当局の認識に従ったとのことのようだ。
プレスリリースによればGSKはまだあきらめたわけではなさそうであるが、当局は他に治療選択肢がほとんどないFIP1L-PDGFRA陰性のHESへの適応は暫定的にでも承認し、使用経験を積みながらその真価を見極めるという手法はとれなかったのだろうか? HES自身はいわゆる希少疾患であるし、それほど他の企業・薬剤が参入してくるような疾患ではないと考えられるため、比較的原因療法に近いmepolizumabは患者にとっても期待の薬剤であったに違いない。
今後、mass marketで勝負するいわゆるblockbuster型の医薬品ビジネスが、他のビジネスと同じように、よりsegment化された市場で比較的小規模な疾患をねらっていくように徐々に変化していくに違いないと考えると、患者側に立てば、規模の小さな疾患でも一定のビジネスとして成立させるための工夫が当局側にも必要であり、上記のような暫定承認という方式も、その一つの選択肢ではないかと考える。
その際、現在の市販後調査に比べてよりactiveな薬効・安全性情報収集が必要となることは間違いなく、極論を言えば、埋め込み型通信デバイスなどを用いた遠隔医療的な手法での情報発信なども利用される日が来るかもしれない。こういった、近い将来のビジネス環境変化についても、折にふれて議論していきたいと思う。